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札幌地方裁判所 昭和48年(わ)215号 判決 1974年6月29日

主文

一  被告人畔見麗子を罰金五万円に処する。右罰金を完納することができないときは金二、〇〇〇円を一日として換算した期間同被告人を労役場に留置する。訴訟費用のうち、証人黒江スズエ、北嶋昭一、村上忠司、橋本正人、坂下カホル、沼田久枝、樫田テル、石田善伸、石田昇に各支給した分の全部および鑑定証人吉本千禎に支給した分の二分の一を被告人畔見に負担させる。

二  被告人澤口亮三は無罪。

理由

第一本件事故発生にいたる経緯など

一被告人両名の経歴、業務内容

被告人澤口は昭和三六年三月北海道大学医学部を卒業し、インターンを経て昭和三七年医師国家試験に合格して医師免許を取得した。その後、同医学部大学院に入学し同医学部第二外科医局に入り、同外科の診療に参加していた。同四一年三月大学院を卒業し、同医学部附属病院(以下附属病院と略称)第二外科副手となり、その後昭和四四年八月国立北海道第二療養所第二外科部長として採用され、同療養所の医療業務に従事するかたわら、同療養所からの研修生として従前どおり附属病院第二外科医局に籍をおき研究を続けながら同外科の扱う患者の診療業務にたずさわつていた。本件事故は、その際に生じたものである。

被告人畔見は昭和三四年六月看護婦国家試験に合格し、美唄労災病院に勤務したのち昭和三八年七月附属病院に看護婦として就職し、同病院の整形外科、脳外科勤務をへて同四〇年四月手術部所属となつたもので、傷病者に対する療養の世話、医師の診療とくに医師による手術執刀の介助等の業務に従事していた。

二附属病院第二外科および手術部の各機構、その各所轄事項

(一)  附属病院第二外科は、同大学医学部外科学第二講座に対応する診療科であつて、本件当時の科長は同講座の杉江三郎教授がこれを兼任しており、その下に助教授(講座と兼任)、講師二名(それぞれ病棟医長、外来医長を兼任)、助手五名、医員二〇数名、副手数名が配置されていた。

第二外科は胸部血管系統の疾病患者の診療およびいわゆる腹部外科としての診療を担当するが、手術を行う場合には、原則として執刀医のほかに指導医兼助手一名と助手二名がこれにあたり、その人選は教授および病棟医長が第二外科医局員の中からその経験、能力などを考慮して行つていた。

(二)  附属病院では昭和三八年六月、各診療科から独立して手術部なるものを設け、これに手術室の管理、手術器材、器具の整備、介助看護婦の教育などの業務を集中的に行わせることにし、各診療科の手術は手術部内の手術室で行われることになつた。本件当時、手術部の陣容として、部長(耳鼻咽喉科長平野新治教授が兼任)、副部長(三浦哲夫助教授)、助手四名、技能員二名、看護要員として看護部に所属し手術部に配置の看護婦長(樫田テル)以下看護婦二七名、看護助手六名がいた。

手術部には手術室一一室のほかにギブス、器材、回復、材料の各室があり、手術器材、器具類は主として器材室に保管されていたが、本件電気手術器などは各手術室に常置されていた。

各診療科において手術を行う場合には、手術予定日の前日午後一時までに手術申込書により手術部に連絡する。この連絡があると、手術部長は麻酔科長と協議のうえ手術予定表を作成し、看護婦長は手術開始時までに手術に必要な器具、器材を整備する。

手術の介助をする看護婦は、原則として直接介助、間接介助とも各一名であり、その人選は手術部看護婦長が手術予定日の前日に行つていた。

三電気手術器の構造、機能など

(一)  本件電気手術器(以下電気メス器ともいう)は医療器具メーカー瑞穂器械製作株式会社が昭和三六年に製作し、附属病院が昭和三七年一月に購入したものであり、電気手術器本体とその附属品としてメス側ケーブル、対極板側ケーブルおよびフットスイッチからなる。手術器本体には高周波電流の発生装置が内蔵され、出力側、対極側の各端子が設けられている。メス側ケーブル(長さ1.9メートル)の先端には長さ約七センチメートルのメスが取付けられ、他方の先端にはプラグが取付けられている。本件電気メス器本来の附属品である対極板側ケーブル(長さ2.12ミートル)の先端には対極板と称する鉛板が取付けられてあり、他方の先端にはプラグが取付けられている。ただし、本件手術に使用された子供用対極板付ケーブル(長さ2.28メートル)は本来の附属品でなく昭和三九年頃手術部技能員により作られたものであり、その対極板は本来の附属品のそれより小型のものである。

(二)  電気手術器を使用するには、患者の身体の一部(通常は足)に対極板を密着させたうえ、手術器本体正面上部左側に並列に配置されている二個の端子接続口のうち出力端子接続口にメス側ケーブルのプラグを、対極端子接続口に対極板付ケーブルのプラグを挿入したのち、同器本体パネル部の電圧ダイヤルを調整して入力電圧を一〇〇ボルトにセットする。電気手術器は止血と切開の両目的に使用することができる。止血に用いる場合には、本件パネル部のセレクターダイヤルを凝固並びに乾燥の位置にセットしたうえ、凝固ダイヤルを通常2ないし3の目盛に合わせる。切開に用いる場合にはセレクターダイヤルを切開の位置にセットしたうえ、切開ダイヤルを通常2ないし3の目盛に合わせる。

以上の操作をしたうえで、術者の足下に取付けてあるフットスイッチを踏めば、本体に高周波電流が生じ、これがメス先に流れる。凝固の際には、出血箇所を挾んでいる鉗子にメス先を接覚させると、出血箇所に熱傷が生じて炭化状態を呈し、同箇所の人体部分が凝固して止血する。切開の際にはメス先を直接、生体に接触させると生体組織に熱破壊が生じて切離する。本件手術では止血目的にのみ使用された。

(三)  電気手術器は高周波電流を患者の身体を含む一定の回路に流し、その回路中に存在する高度の電気抵抗を利用して高熱を発生させ、これによつて前述の各目的を達するものである。

電気手術器を前述のようにセットしたのち、フットスイッチを押し、メス先を手術対象に接すると、出力端子――メス側ケーブル――メス先――患者の身体――対極板――対極板付ケーブル――対極端子という電気回路が形成され、これに高周波電流が流れるが、メス先が鋭く尖つているので、メス先とその人体組織との接触部分の電気抵抗が高くなり、同部分に高熱が生じこれによつて凝固または切開の目的が達せられる。

(四)  本件事故は電気手術器の使用に関して生じたものであるが、その原因として実際上考えられるのは次の二通りである。

第一は、電気手術器のケーブルの交互誤接続である。電気手術器は、本件手術当時、附属病院に合計一〇台が備付けられていたが、そのうち九台についてはそれぞれ本来附属していたケーブルを使用する限りでは、ケーブルの交互誤接続は起りえない構造になつていたが(一〇台中一台は交互誤接続が可能であるが、右手術器は眼科などの手術に使用する特殊なものである。)、附属品以外のケーブルを使用する場合には、交互誤接続が起りうる場合がある。ところでケーブルが交互誤接続されたまま電気手術器を使用しても、当該被術体に他の電気器具を使用していない場合にはなんの事故も起りえない。その場合、高周波電流の流れる方向は正接続の場合に対し反対になるが、電気抵抗の高い箇所はメス先きだけであり、同所にのみ高熱が発生し他の身体部分に高熱が生ずることはなく、メスの効き具合にも異常はない。

しかし本件手術においては、心電計が使用され、その四箇の接地電極のうちの一つが患者の右下腿部で、電気手術器の対極板を装着した箇所に接近した箇所に装着されていたこと、かつ電気手術器と心電計の双方に接地アースが取り付けられていたこと、また心電計に異常電流の流入を防止するヒューズなどの安全装置が備つていなかつたこと、このような条件の下で、電気手術器のケーブルが交互誤接続された状態で電気手術器が使用された場合には本件事故が発生しうる。すなわちこの場合、高周波電流は、

(1) 出力端子――対極板側ケーブル――対極板――患者の身体――メス先――メス側ケーブル――対極端子

という電気回路に流れるほかに、

(2) 出力端子――対極板側ケーブル――対極板――患者の身体(対極板の装着箇所から接地電極の装着箇所にいたる部分)――心電計の接地電極――心電計のケーブル――心電計――心電計のアース――電気手術器のアース――対極端子

という特殊な電気回路にも分流する(以上のほか、被術体と手術台間の静電容量を通しても分流する)。

高周波電流がこのように分流するため、(1)のメス先には少量の電流しか流れないことになり、電気メスは所期の機能を発揮しない(メスの効きが弱い)のみならず、右(2)の分流回路の中で右患者の身体部分の電気抵抗が高度となるため、同所に高周波電流の多量消費が行われ、同部位に異常な熱傷を生ずるのである。

第二の原因はメス接地の場合である。これは電気手術器のケーブルを正しく接続した状態でメス先を手術台(金属性)などに接触した場合、高周波電流は、

(A) 出力端子――メス先――接地――電気手術器のアース――対極端子

(B) 出力端子――メス側ケーブル――メス先――接地――心電計のアース――心電計――心電計のケーブル――心電計の接地電極――患者の身体――対極板――対極板側ケーブル――対極端子

(C) 出力端子――メス側ケーブル――メス先――手術台――静電容量を介して――患者の身体――対極板――対極板側ケーブル――対極端子

という三つの回路に流れる。

ところで、この三つの回路のうち、(B)(C)に流れる高周波電流が対極板に集中し、対極板を装着した身体部分の電気抵抗が高度であるため、同所に熱傷の生ずる可能性がある。ただし、この場合、もちろん、看護婦が電気手術器本体の入力ダイヤルを廻わしており、かつ術者がフットスイッチを踏んでいることが必要であり、また本件程度の火傷が生ずるには、少くとも数十秒以上のメス接地の状態が継続していなければならない。

以上のほかに電気手術器本体になんらかの原因で高圧の電流が流れた場合などが考えられないわけではないが、本件においてそのような原因であることを窺わせる形跡は認められない。

四本件手術の準備と経過

(一)  被害者松田貞行は昭和四三年三月生れの幼児で、先天的に循環器系統の奇型があり、虚弱で生後半年位のとき釧路市の病院で動脈管開存症と診断され、昭和四五年六月三〇日附属病院小児科に入院し、同年七月三日やはり同じ病名と診断され、同月六日外科的治療をうけるため第二外科に転科し、手術は同月一七日と決つたものである。

動脈管開存症とは、大動脈から分岐して肺動脈につながる動脈管が本来なら出産と同時に退化し閉塞されるべきにかかわらず生後も閉塞しないため、大動脈から高圧の血液が肺に流れることになり、肺動脈を硬化させるとともに心臓の機能を低下させる疾病である。したがつて手術により、大動脈との分岐点で動脈管を切離し、肺動脈への血液の流れを断つことが必要であるが、大動脈直近にメスをあてるため大動脈に損傷を与えて大量出血を招くとか神経損傷などの危険を伴い高度の技術を要する手術である。

(二)  被害者に対する手術は同年七月一六日に、翌一七日午前九時から第一手術室で行う旨決定され、被告人澤口が右手術の執刀医に、医師村上忠司(救急外科助教授)指導医兼第一助手に、医師橋本正人が第二助手に、医師前田喜晴が第三助手にそれぞれ決められた。一方、手術部看護婦長により坂下カホル看護婦が直接介助に、被告人畔見と沼田久枝看護婦が間接介助に決められた。麻酔医についても医師安田耕一郎ほか一名が決められた。

(三)  本件手術当日午前八時ころ、被告人畔見ほか二名の看護婦が第一手術室に入り、手術器具、器材などを持ち運んでくるなどの準備をし、午前八時半ころ患者が入室し、ほぼ同時刻ころ麻酔医二名が来室して患者の全身麻酔にとりかかつた。

被告人澤口は午前九時ころ入室し、患者の体位取りをした。その間、被告人畔見が同手術室に常置されていた本件電気手術器の附属品入れ抽斗から電源ケーブルを取出してこれを同室内のソケットに挿入した。

一方、沼田看護婦は子供用対極板付ケーブルを器材室から携行してきて、患者に対する体位取りの終了後、患者の右足関節上部に対極板を装着した。また麻酔医によつて心電計の接地電極が患者の両手、両足、とくに右足には子供用対極板の装着箇所より約五センチ膝蓋部よりに装着された。

直接介助坂下看護婦は本件メス側ケーブルなど滅菌された器具類をすべて整備したのち、被告人澤口とともに滅菌された被布を患者の身体と手術台を被うようにかけ、これによつて本件手術の準備は午前九時一五分ころ電気手術器のセットをのこし、すべて完了した。

(四)  手術準備がほぼ完了したのち、被告人澤口ほか三名の術者側医師、直接介助看護婦らは手術台を囲んで所定の位置についた。

患者の胸部の右側に被告人澤口が立ち、同被告人の左側に第二助手、そのさらに左側に坂下看護婦が立ち、被告人澤口に向い合つて、指導医兼第一助手村上医師が立ち、同医師の右側に第三助手前田医師が立つた。後述のとおり被告人畔見が電気メス器のケーブルを接続したりダイヤルを調整していたのは前田医師の右側後方付近においてである。

電気手術本体については滅菌措置が行われないため、患者に被布をかけたのちに、これを手術台に接近させることになつており、従つて、右のように術者らが所定の位置についたのち、被告人畔見がこれを手術台に接近させ(その位置は前田医師の右側後方)、そのフットスイッチを被告人澤口の足許におき、セレクターダイヤルを凝固および乾燥の位置に合わせ、凝固ダイヤルを「2」の目盛にセットした。

その間、被告人澤口は坂下看護婦からメス側ケーブルを受取り、メス部分を自己の手許の被布に鉗子で止めているビニール製メス入れ袋に納め、同ケーブルのプラグ部分を被布の上から被告人畔見の方に投げ渡し、その接続を依頼した。この段階では対極板側ケーブルのプラグは被布の下から床面に垂れ下がつている状態にあるが、被告人畔見は、以上二本のプラグを取りあげて、これを電気手術器本体の二つの端子接続口に挿入した(極性に従つて正しく接続したか、交互誤接続したかが問題である)。

(五)  以上のような経過ののち、午前九時二〇分ころ、被告人澤口は、麻酔医に対し患者の容態を確かめ、村上指導医に「宜しくお願いします」と告げて、執刀を開始し、まず円刃刀と称する普通のメスを使つて患者の左側胸部の皮膚を切開した。当然、出血したので、村上医師らがガーゼで血液を拭きとり、その出血箇所を数本の止血鉗子で挾んだ。そこで被告人澤口は右出血箇所を凝固させるため、電気メス入れ袋からメス先を抜取り、右鉗子にメス先をあてフットスイッチを踏んで出血箇所を凝固させようとしたが、効きが悪く、通常の時に比べて凝固作用を十分に発揮しないので、被告人畔見に対し「弱い、弱い」と告げて電気手術器の出力をあげるよう指示し、畔見被告人はこれに従い、凝固ダイヤルの目盛をあげ、さらにボルトコントロール・ダイヤルの目盛を「2」から「3」「4」にあげた。こうして弱いながらも右止血処置が果された。

次いで被告人澤口は肋間筋の切開などを経て開胸し、開胸後は大動脈、肺動脈などを組織から剥離し、大動脈分岐点の上下にテープをまきつけて出血の予防措置をして動脈管を切断し、さらに大動脈や肺動脈の縫合などの措置をして、閉胸し同日午前一〇時五〇分ころ、右手術を終了した。手術自体は成功をおさめた。

(六)  手術終了後、沼田看護婦が患者の身体をおおつている被布を取りのぞいたところ、対極板を装着した付近の同人の右足関節直上部が白つぽく変色しているのを発見し、直ちに附属病院皮膚科大浦武彦教授が診察したところ同部位に第三度の熱傷の生じていることが判明した。

被害者は右事故のため右下腿切断のやむなきに至り同月三一日その手術が行われたが、同人は幼児であるためその生長に伴つて切断された骨も生長し、皮膚を破るおそれがあるので、最終的に生長が停止する二五才位まで定期的に再手術を行い骨を削り取らなければならない状態にある。

第二被告人畔見に対する有罪判断の理由

一罪となるべき事実

被告人畔見は、附属病院手術部配属の看護婦として前述の業務に従事していたもので、前述のとおり昭和四五年七月一七日午前九時二〇分ころから同病院手術部第一手術室において、相被告人澤口医師が執刀医となり前述の各メンバーとともに前述の電気メス器を用いるなどして患者松田貞行に対する動脈管開存症の根治手術を行つた際、間接介助看護婦として右メンバーに加わり、電気メス器についてはケーブルの接続、ダイヤルの調整などを扱うことになつたところ、右電気メス器のメス側ケーブルのプラグは手術器本体の出力端子に、対極板付ケーブルのプラグは同対極端子に各接続すべきものであること並びに右手術に際しては本来の附属品でない子供用対極板付ケーブルを使用することになつた関係で交互誤接続の余地があつたことを知つており、かつ電気手術器は高周波電流を患者の身体に通じその回路中に発生する高熱を利用する機械であることに照らし、ケーブルを誤つて接続するならば電流の流路に変更が生ずるなどして患者に対し危害を及ばすおそれがないわけでないことを知りえたものであるから、これを正しく接続して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があつたのに拘らず、これを怠り不注意にも右各ケーブルと各端子を互いに誤接続させたまま、これを手術の用に供した過失により、相被告人澤口が右電気メス器を使用した際、手術器本体の出力端子から流れる高周波電流の一部が対極板ケーブルをへて対極板の装着された同患者の右下腿部、同部位に接近して装着されていた心電計の接地電極、心電計、そのアース、および電気メス器のアース、対極端子を結ぶ回路に分流し、右回路中、電気抵抗の高い右対極板装着部に高周波電流による多量の発熱が生じることになり、そのため同患者に対し右下腿部切断を余儀なくさせる右足関節直上部に第三度熱傷の傷害を負わせたものである。

二証拠の標目<略>

三事故原因についての証拠説明

被告人畔見の弁護人は、被告人畔見が本件電気手術器のケーブルを交互誤接続させたまま使用に供した事実はない旨主張しているので、この点について若干の説明を付加する。

まず、北海道大学応用電気研究所教授吉本千禎が、本件の事故対策連絡会議からの嘱託により昭和四五年八月三日成犬をもちいて行なつた動物実験の結果、および検察官からの嘱託により昭和四七年一二月二日棒状石けん(電気抵抗の点で人体組織と近似する)をもちいて行なつた鑑定実験の結果、その他同教授の鑑定書、公判での供述によると、本件事故の原因は、(一)判示のとおり各ケーブルを交互に誤接続した場合、あるいは(二)各ケーブルの接続は正しいが、術者がメスを手術台に接地せしめた場合のいずれかであると認められ、それ以外の原因を考えることができない。弁護人もこれについてなんら根拠のある疑問を提起していない。

そこで、本件事故がケーブルの交互誤接続によるか、メス接地によるかについて考察すると、

(一)  まず、本件電気メスを使用した際の状況をみると、被告人澤口が執刀を開始し、はじめに電気メスを止血に用いようとしたさい、メスの効きが悪く、被告人澤口あるいは村上医師から被告人畔見に対し「弱い」との指示がなされ、被告人畔見が出力をあげたこと、しかし、依然として効きが弱く、再度出力をあげさせたが、それでも効きが十分でなく、そのような状態が手術開始直後から開胸直前まで約一〇分ないし一五分間続いたこと、ところが、その後、再び電気メスを使用した際には、右とは逆に、効きが強すぎる状態であつたため被告人澤口から「強すぎる」との指示がなされ、被告人畔見が出力を下げ、その後は電気メスの効きは平常どおり正常に戻つたことが認められる。右経過において被告人畔見がどの程度まで出力をあげたかであるが、被告人畔見の検察官に対する供述および公判供述によると、当初は通常どおり凝固ダイヤルを「2」に、ボルトコントロール・ダイヤルを「3」にしていたところ、最初に「弱い」と言われて凝固ダイヤルを「2」から「3」にあげ、次いで、「まだ弱い」と言われて、ボルトコントロール・ダイヤルを「3」から「4」に、凝固ダイヤルを「3」から「4」にあげたが、更に「まだ弱い」と言われたというのである。一方、橋本医師の証言および直接介助者坂下看護婦の検察官に対する供述によると術者側から被告人畔見に対し、何回かのアッピールがなされたのち、被告人畔見が「最大になつています」と答えたことがあるというのであり、これらによると、被告人畔見は、少くとも右二つのダイヤルのいずれかを最大にまであげたが、なおかつ、メスの効きが十分でなかつたことが認められる。

(二)  鑑定人吉本千禎が前記棒状石けんを用いて行つた実験結果によると、

交互誤接続の場合には、石けんは、対極板との接触面において発煙を伴うほど強度の熱変化を示し、その部分が熱のため溶融した(人体の場合には高度の熱傷の原因になつたであろうと推察される)のに対し、メス先の効果は著明に減弱し、出力をあげても左程メス先の効果は上らなかつたことが認められた。

他方、メス接地の場合には、石けんは、対極板との接触面においては、軽度の変色をもたらす程度の熱変化を示したに止まり、出力をあげてもそれ以上著しい変化を示さず、これに対して、メス先の効果は右誤接続の場合に比べて遙かに良好であつたことが認められた(ケーブルの交互誤接続とメス接地とで、以上のとおりの差異が現われる理由につき、吉本教授の鑑定書、2・6参照)。

吉本鑑定人が成犬を対象として行つた実際や村上医師が雑犬を対象として行つた実験においても、吉本鑑定人の前記石けんを使用しての実験結果とほぼ同様な結果が確認されている。

ところで、本件手術に際しては、対極板を装着した部位に高度の熱傷が生じた反面、メス先の効きが著しく減弱し、出力をあげても遂にメス先の効きが十分な程度に達するに至らなかつたわけであるが、これを右実験の結果にあてはめてみると、メス接地の場合よりもはるかにケーブルの交互誤接続の場合に適合するように認められる。

(三)  本件手術のさい、メス接地が行われるような状況がありえたかについて検討すると、メス先はこれを使用しない時には手術台などに接触しないようにビニール管の鞘に納めてこれを手術台の被布の上に、固定しておくこと、術者においてもメス先きが滅菌消毒されていない手術台に触れないよう細心の注意を払うのが通常であること、メス接地によつて本件のような高度の熱傷を生ぜさせるためには少なくとも数一〇秒間、メス接地の状態が継続していることが必要といわれるが(吉本鑑定人の証言)、術者が数十秒以上もの間、メス接地の状態でメスを放置し、その間フットスイッチを踏みつづけ、かつ被告人畔見においても電気メス器を作動するためのダイヤルを廻しつづけるというようなことが、本件手術の過程で起りえたとはとうてい思われない。

(四)  本件手術に際し用いられた電気メス器と二本のケーブルによれば、ケーブルの交互誤接続が可能であるだけでなく、これを正接続に接続するよりも交互誤接続にする方が、プラグのおさまりがよい状況にあつた(石田昇の検察官に対する供述調書)。

以上の各事実を、前掲証拠によつて認めることができ、その他本件各証拠に現われた諸般の状況に照らすと、本件事故がメス接地によつて生じたと窺うべき状況は全く認められず、被告人畔見においてケーブルを交互誤接続させたことによるものであること、当初メスの効きが悪く、術者側から被告人畔見に対し「弱い、弱い」という指示があつたのはケーブルが交互誤接続されていたからであり、次いでメスの効きが強すぎる状態になつたのは、被告人畔見において「弱い、弱い」との指示に基いて出力、凝固のダイヤルを上位の目盛に廻わしたのちケーブルの誤接続に気づいて正接続に改めたのに拘らず右ダイヤルをそのままにしておいたことによるものであり、次いで更にメスの効きが正常な状態に復したのは、術者側からの「強すぎる」との指示に基いてダイヤルを通常の目盛になおしたことによるものであること、以上のように認めることができる。

被告人畔見の検察官に対する供述および公判廷における供述のうち、以上の認定に反する部分は信用することができず、弁護人の前記主張は採用することができない。

四法令の適用と量刑事由

被告人畔見の判示所為は、行為時においては、刑法二一一条前段、昭和四七年法律第六一号「罰金等臨時措置法の一部を改正する法律」による改正前の改正前の罰金臨時措置法三条一項一号に、裁判時においては、刑法二一一条前段、右改正後の罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するが、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によるべく、所定刑中、罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で同被告人を罰金五万円に処し、右を完納しない場合には、同法一八条により金二、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により主文のとおり定める。

量刑について考察すると、被告人畔見は手術部看護婦としてごく普通の注意を払いさえすれば交互誤接続をさけえたのに、これを怠り事故を発生せしめたものであつて、その不注意の程度は大きく、しかも発生した結果は誠に重大であつて、その刑責は軽視しがたいものがある。しかし附属病院において電気メス器の原理、その危険性などについて看護婦に対し格別の教育がなされたことがなく、かつ本件は全く前例のない新規な事故であつて、同被告人としてその不注意によりこれほど重大な事態が生ずるであろうことを全く予想することができなかつたこと、本件のように高度に複雑な医療電気機器の操作に由来する事故を防止するためには本来、医療機器メーカー、同研究者、機械を管理すべき病院管理者など広範囲の医療関係従事者による様々な社会的措置にまつべきものであつて、個々の医師、看護婦の個別的、主観的な注意力に多くを期待すべきものでないこと、現に本件においても附属病院管理者において電気メス器の両ケーブルの接続の構造を根本的に違わせるような改造を施していさえすれば完全に事故を防止しえたこと、本件事故前に手術部看護婦長から事務当局に対し専門家による診療機器の定期的点検整備をして貰うよう申し出ていたが、これが採用されていたならばやはり事故は防止しえたであろうと思われること、同一被術体に対し二種以上の電気機器を施用する場合、相互に異常電流の流入を防止するための安全装置を取付けるべきであることが吉本鑑定人により指摘されているが(鑑定書Ⅱ・9参照)、心電計にこの装置が取付けられていたならばやはり事故は防止しえたと思われること、医師人口の不足している我が国の現状としてやむをえない面があり、かつ補助的準備的作業とはいえ診療機器の操作をかなり大幅に看護婦に任かせていた診療態勢にも問題があつたことなどを考慮すると、被告人畔見のみを強く非難することは片手落ちといわなければならず、その他諸般の事情を考慮し、右のとおりの刑を量定すべきである。

第三被告人澤口に対する無罪の理由

一公訴事実と争点

右公訴事実は、「被告人澤口亮三は、昭和三七年五月医師の免許を取得し、昭和四四年八月から附属病院第二外科診療科研修生として医療業務に従事していたものであるが、昭和四五年七月一七日午前九時一〇分ころから同日午前一〇時五〇分ころまでの間、附属病院手術部第一手術室において、相被告人畔見らの介助を受け、本件電気メス器を使用して患者松田貞行(当時二年五月)の動脈管開存症の根治手術を行なうにあたり、電気メス器は高周波電流を人体に流すことによる発熱作用をその作動原理とするものであつて、電気メス器本体の出力側端子にはメス側ケーブルを接続すべき出力端子と対極板側ケーブルを接続すべき対極端子とがあり、これを互いに誤つて接続させると、人体に対し異常な熱傷を発生させる等の危険を生じさせるおそれがあるので、電気メス器を使用するさいには、あらかじめ右各フーブルと右各出力側端子との接続状況を点検してその誤接続のないことなどの安全を確認したうえ使用し、右熱傷等の事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、相被告人畔見をして手術開始前に行なわしめた各ケーブルと各出力側端子との接続に交互誤接続が生じたのにかかわらず、右誤りはないものと軽信し、なんらその点検および安全の確認をせず、右誤接続に気付かないまま電気メス器を使用して右手術を行なつた過失により、同手術に併用していた心電計の接地電極および電気メス器の対極板がそれぞれ装着されていた患者松田貞行の右下腿部に過大な高周波電流を流れさせて、右対極板の装着された同児の右足関節直上部に高周波電流を高密度に集中させ、同部に高熱を発生させた結果、同児に対し右足関節直上部に右下腿切断を余儀なくさせる第三度熱傷の傷害を負わせた」というのである。

右公訴事実のうち、被告人澤口の経歴、業務内容、同被告人が行つた手術の経過、事故発生にいたるまでの経緯、発生した事故の内容などについては、前記第一および第二の一記載のとおり認めることができるので、被告人澤口に対し右事故の結果について刑事上の過失責任を問いうるか否かは、同被告人について右公訴事実記載の注意義務があつたといえるかどうか、同被告人がケーブルの接続の正否を点検確認しなかつたのは右注意義務の懈怠といえるかどうかに、かかつているものといわなければならない。

二注意義務またはその懈怠の有無について(以下の事実は、すべて前記第二、二に掲げた証拠によつて認定したものであるが、重要な点については適宜それに関する主な証拠をあげる。)

被告人澤口が本件手術当時おかれていた具体的事情の下において、執刀医として電気メス器を使用して手術をしようとした際、そのケーブルの接続を畔見看護婦に任かせることなく、みずからもケーブルの接続の正否を点検確認すべき業務上の注意義務があつたかどうか、同被告人がこの措置に出なかつたのは右注意義務に違反したといえるかどうかであるが、本件で取調べた各証拠から認められる左記1ないし3掲記の諸事実を重視するならば、この問題は積極に解してよいように思われる。すなわち、

1  本件手術当時、附属病院手術部には、八機種、合計一〇台の電気手術器と各ケーブルが備付けられていたが、本件事故後、捜査官においてこれを総点検した結果によると、右一〇台のうち眼科、耳鼻科手術専用の特殊な超短波電気手術器を除くならば、いずれの電気メス器もそれぞれに本来附属していた各ケーブルを使用する限り、極性ごとに各端子の接続口と各ケーブルのプラグの大きさを違わせるなどの設計上の配慮がなされており、ケーブルの交互誤接続は生じえない構造になつている。

ところが、附属病院では前述のとおり、各診療科のほかに手術器具、器材の管理、整備および介助看護婦に対する教育などを分担する手術部が設けられていたところ、昭和四〇年頃、手術部の看護婦が幼児の患者に対し通常の対極板を装置するのは大きすぎて装着しにくいので小型に改造しようと考え、これを手術部技能員石田昇に依頼したこと、この依頼をうけた同人が同病院内の電気メス器の一台の対極板付ケーブルの対極板を鋏みで小型に削つて子供用対極板としたこと(石田昇の検調書)、そのため幼児の患者に対して手術が行われる場合、この対極板付ケーブルが本来の付属以外の電気メス器にも転用されることとなり、それが若干の機種に用いられる場合、そのケーブルプラグは対極端子接続口だけでなく出力端子接続口にも挿入(接続)可能となつた。他方、メス側ケーブルであるが、これは前記第一、二、(二)、四、(三)で述べたとおり各手術の直前に直接介助看護婦が滅菌ずみのものは器材室から携行してきて、術者側医師に渡すことになつていたが、その際、看護婦の中には、正規の附属品かどうかは確かめることなく、その日使用する電気メス器に合いそうなものを適当に選んでもつてくることがあつた。以上のような事情から、本件手術当時、正規の附属品以外のケーブルが準備され、使用に供されることがあつた。ところで附属品以外のケーブルを使用した場合の交互誤接続の可能性であるが、前記捜査官の調査結果によると、(イ)各電気メス器に本来附属しているメス側ケーブルと対極板側ケーブルを対のものとして、これをそれぞれ本来付属すべき電気メス器(一〇台)の両端子に交互誤接続可能か否かを調べてみると、可能な例が一例(この一例は前記眼科などに専属的に使用されていた特殊な一台についてである。)あり、本来付属すべき電気メス器以外の器械について調べると交互誤接続可能な例が五例あつたこと、(ロ)前記子供用対極板とメス側ケーブルを組合せて交互誤接続の可能性を調べると、可能な例は三四例あつたこと、(ハ)ある器材に本来付属しているメス側ケーブルと(イ)記載の対極板ケーブルを対にせず、随時組み合わせて交互誤接続の可能性を調べると、(イ)記載以外にも可能な場合が発見されるであろうこと(但し以上のいずれの場合にも、プラグが接続口の奥行に長すぎたり短かすぎぎたり、又は接続にきつすぎたりゆるすぎたりして、操作に際し違和感をもたれる場合を含む)が認められた。

ところで、このように附属品以外のケーブルが使用に供され交互誤接続の余地があつたという実情を、手術を行う診療科の医師一般が認識していたかどうかであるが、検察官指摘の相被告人畔見の供述や証人黒江スズエの供述によると、このような実情はこれらの医師一般に知られていたはずであるというに帰着する趣旨の供述をしている。

2 手術部看護婦により用意される電気メス器の各ケーブルに誤接続可能のものが含まれていたとしても、実際に看護婦がこれを接続する際、その操作を誤まらない限り交互誤接続は生じない。そこで、その過誤の生じうる可能性を考察してみると、電気メス器本体の各接続口のうち出力側は、英語で「ACTIV」または日本語で「出力」と表示してあり、対極側は同じく「PATIENT」または「対極」と表示してある。他方、ケーブルプラグについては、前記第一、四、(四)で認定したとおり、間接介助看護婦がそれを手にして接続しようとする段階においては、対極板付ケーブルの方は患者の身体にかけられている被布から床面に垂れ下がる状態になつているのに対して、メス側ケーブルの方は執刀医から患者の被布越えに看護婦の方に投げ渡されるのが通常であり、従つて看護婦がこの二本のケーブルのプラグを手にする際、彼此のケーブルを取りちがえてしまうおそれはまず考えられない。ただ問題となるのは、接続口が英語で表示されている場合(本件電気メス器もそうなつている)それが誤読されるおそれがないかであるが、当時附属病院でケーブルの接続(ダイヤル調整を含め)などを扱う間接介助の役には、手術部配属の看護婦の中から介助業務に習熟したものを割当てていたようである(樫田テルの昭和四七年一一月二〇日付検察官供述調書)から、この表示が誤読されるおそれもまず考えられない。従つて、前項記載の事情によりたまたま誤接続可能のケーブルが準備された場合であつても、実際に交互誤接続が生ずるのは、接続を扱う看護婦がよほど不注意な状態にあつたのでない限り、まずありえないところである。附属病院においてこれまで長期間交互誤接続による事故例が皆無であつたという事実もこれを裏付けるであろう。

しかし、それにしてもケーブルの交互誤接続が絶対に生じえないという保証のないことは勿論であり、本件において、正しくそれが現実化したのである。検察官が指摘するとおり、医療行為においては危険防止のため可能な限り最善の措置がつくされなければならず、このような観点からいうならば、ケーブルの交互誤接続の実際上の可能性はごく僅少なものとはいえ、とにかくその余地を残していたものである以上、執刀医としては、これに留意すべきであつたということができよう(この場合、とられるべき最善の措置としては、出力側と対極側とで接続の構造を根本的に相異せしめるとか、又は色分けするなどの方法が考えられるが、次善の措置としては医師において接続の正否を点検確認することも考えられる)。

3  電気メス器を単独で使用する限り、ケーブルが交互誤接続されていても患者に対しなんの危険ももたらさないが、本件手術におけるように、心電計を併用した条件下で電気メス器のケーブルの交互誤接続を看過して使用した場合、両器機の各接地アースを共通とする特殊の電気回路が形成され、これに高周波電流が分流し、その回路中、心電計の接地電極と電気メス器の対極板を各装着した患者の身体部分の電気抵抗が高度となることにより、同部分に重大な火傷の生ずることは殆んど必然的な関係にある(前記第一、三、(四)参照)。

問題は、通常の執刀医の有する医学上の知識、経験によつてこのような因果関係又は結果発生の可能性を予見できるかどうかであるが、これを明瞭または具体的な形で、或いは相当に丹念な積極的注意を向けることなしには、この因果関係などを予見することは不可能に近い。このことは、(イ)本件事故後、附属病院において直ちに事故原因の調査をしたが、当初における調査の方向は、専ら電気メス器や心電計の機械的な故障の有無などに向けられ、即座にケーブルの交互誤接続という原因を洞察した医師などのいた形跡はないこと、(ロ)事故の翌日、北大応用電気研究所ME部門三上智久助教授を招き、その意見を求めたが、同助教授すら、事故原因が交互誤接続によるとは考えられないとの見解を述べ、ほかの色々な機械的その他の原因を指摘するに止つていたこと(北海道大学医学部附属病院手術事故原因調査委員会の昭和四六年三月一八日付報告書)、(ハ)北大医学部では、それまで電気メス器の取扱いやその原理などに関する講義をカリキュラムに取り入れていたことがなく、通常の医師は教授や先輩医師から、単に対極板の装着方法など電気メス器のメーカーから出ている使用書に記載されている程度のことや手術に際してのメス先の使い方などを教わる程度にすぎなかつたこと、第二外科杉江三郎教授においてすら、本件事故の原因について、北大応用電気研究所吉本千禎教授の鑑定書を読んではじめて交互誤接続により特殊な電気回路が形成され、かつその回路中本件で火傷が生じた部分の電気抵抗が異常に高くなることを知りえたと述べていること(杉江三郎の検察官調書)などに照らして明らかである。

しかし、一般に電気器械などにおいて、プラグを極性に従つて接続すべきものと指定されているのに、それを無視して交互誤接続がなされる場合(器械の操作に関する技術的行為準則違反)、なんらかの事故が生じないとは限らないということは常識的観念の範囲内にあるように思われること、電気メス器が高周波電流を患者の身体に通じその回路中に生ずる高熱を利用して手術目的を達するもので、本質的に危険を内蔵する器械といいうることなどに着眼すれば、通常の執刀医においても、電気メス器のケーブルが交互誤接続されたままこれを使用するならば何らかの危害が患者に及ぶかも知れないという程度の予測をすることは可能であつたということができよう。

以上1ないし3の事実および証拠を綜合すると被告人澤口は、看護婦により準備される電気メス器のケーブルに往々付属品以外のものが含まれていたことを知つていたことにより、電気メス器のケーブルが本来の使用法に反して交互誤接続のまま使用に供される可能性のあることを一応具体的に認識していたものとみるべき余地があり、しかもそれによつて何らかの事故が生ずるかも知れないと予測することも可能であつたといえないことはなく、このような場合、執刀医としては、ケーブルの接続を看護婦に任かせることなく、自ら又は他の手術助手を介するなどしてその接続の正否を点検確認し、もつて生ずるかも知れない事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があつたということができるようである。

しかしながら、他方、次に掲げる諸事実を考慮するならば、右のように断定することについては多大の疑問がある。すなわち、

(1) 被告人澤口の検察官に対する各供述調書、同人の公判廷における供述などによると、同被告人は、本件手術当時、電気メス器のように、多くの病院で色々な医師、看護婦により操作される診療器械については、往々生じがちな単純な操作上のミスによつて重大事故が生ずるような構造になつているはずがない、電気メス器についてもその安全使用のためケーブルは極性に従つて接続することが要求されているものとすれば、そもそも交互誤接続など起りえないような設計上の配慮がメーカーによつてなされ、かつ市販前、各種の機関によつてその点がチェックされているはずである、本件手術に使用した電気メス器も当然そのような構造を具備しているものと考えていた、と述べている。被告人澤口のこの供述は終始一貫しており、十分これを信用することができる。

ところで、同被告人がこのように考えていたことは単なる主観にすぎないとも言えるが、しかし、実際に当時使用されていた電気手術器は、いずれも附属のケーブルを使用する限り、交互誤接続が原則として起こりえない構造に設計されていたものであるから(前述の眼科など専用の英国製手術器は例外であるが、同器の場合、交互誤接続があつても絶対に事故が生じえないような配慮が別になされているかどうか証拠上は不明である)、同被告人が電気メス器とケーブルの本来的、一般的な構造について右のように考えていたことについては客観的な妥当性があつたというべきであり、それ自体決して根拠のない軽率な判断であつたとはいえないところである(杉江教授も、検察官に対する供述調書の中で、電気メス器の使用に際して、メーカー発行の使用説明書記載のとおりの使い方をすれば事故は起きないという信頼をもつていたと述べているが、本件で提出された各使用説明書をみても、電気メス器の使用上の注意としてケーブルの交互誤接続の可能性に関し触れた記載はみあたらない)。

ただ附属病院における特殊な事情として、手術部の看護婦や技能員によつて附属品以外の子供用対極板ケーブルが作られていたり、附属品以外のメスケーブルが準備提供されたりしていた実態を、診療科の医師である被告人澤口において容易にこれを知りえたのでないかという点が問題として残るところであり、もし容易にこれを知ることができなかつたということになれば、同被告人において前記のような観念に従つて行動したことにつき過失を論ずべき余地は少ないといつてよいであろう。

そこでこの点について考察すると、

(イ) 相被告人畔見の検察官に対する供述調書(一二月六日付)や公判(第一一回)供述によると、執刀医が電気メス器を使用している際、メス先を床に落としてしまつたり、または不潔なものに触れてしまつたりすることが多くあり、或いはメスを取付けている木部の付根が外れてしまうことがあり、また対極板の鉛部分が毀われてしまうことがしばしばあり、そういう場合、看護婦が手術中他の部屋に出かけていつて適宜別のケーブルを持つてくることがしばしばあり、このような事実に照らし、附属品以外のケーブルが使用されているという実態は各診療科の医師に当然知られていたはずであるという趣旨の供述をしている。証人黒江スズエ看護婦もあいまいな表現であるが、同様の趣旨の証言をしている(速記録一一頁以下)。しかし、メスを固定している木部の付根部分であるが、押収してある電気メス器のケーブル三本(昭和四八年押一八八号の一、五、六)をみても、また検察事務官曾根清が附属病院備付けの各ケーブルの状態を撮影した写真報告書(甲八一号証)などをみても、メス側ケーブルの右部分は相当堅牢にできているように認められること、電気メスはその使用に際し無理な使い方をするものとは思われないことなどから考えると、メス側ケーブルの右の個所が手術の際中に破損したり外れてしまうことがしばしばあつたというようなことは、容易に信用することができない。対極板についても同様にいえる。またメス先を手術中に床に落としてしまうとか不潔なものに触れてしまい取替えを余儀なくされるというようなことも、しばしば生じうる事柄とは思はれず、畔見被告人、黒江証人の各供述はいずれも信用しがたい。

(ロ) 被告人澤口が執刀医として電気メス器を使用したのは今回がはじめてではなく、それまでも相当多数あつたと認められるが、そのような機会を通じて、附属品以外の、または交互誤接続可能のケーブル使用の実態を容易に知りえたのではないかとの疑問がもたれる。しかし、前述のとおり、附属品以外のケーブルが用いられたといつても、いつもそうなのではなく、むしろ各証拠から認められる手術準備に関する全般的状況に照らすと、原則的にはやはり附属品のケーブルが用いられてきたと窺われること、附属品以外のケーブルが用いられた場合であつても、つねに交互誤接続が可能というわけでないこと、その他附属品以外のケーブルと附属品のケーブルとを比較してもケーブルの色、太さ、対極板の性状(子供用対極板は大きさが違うだけ)など外見上判別しがたいものであつたことなどを考慮すると、被告人澤口が電気メス器を使用したのは今回が初めてでないという点は考慮にいれても、ケーブルの誤接続の可能性を容易に知りえたとは思われない。同被告人において附属病院に備付の電気メス器とケーブルのすべてを取出して総点検を行うなどしたならば誤接続可能な場合が相当数例あることを発見しえたであろうが、そのようなことは個々の執刀医に期待されて然るべき事柄ではない。

(ハ) 診療科の医師一般としてケーブルの誤接続可能の余地を知りえたかどうかについては結局、手術部と診療科について定められている業務分担関係を考慮しなければならない。附属病院手術部運営要綱第八項によれば、手術部(看護婦長)は手術の開始時までに手術に必要な器具、器材を整備すべき義務を負担している。診療科の医師は手術部が整備提供した器具、器材を用いて手術を行う。ところで職務の分担、分業が行われる場合、安全確保のため二重、三重のチェックを行うという観点から重複することはいとわないとしても、その連絡関係において不明確や空白があつてはならない病院内の職務分担を定めた規定としては、右運営要綱の規定は簡潔すぎる嫌いがあり、とくに右にいう「手術器具、器材の整備」という概念は明瞭さを欠くが、電気メス器についていえば、それが本来付属のケーブルとともに使用されるべき構造を具備していたものである以上、手術部において電気メス器とケーブルを整備提供する場合、本来の附属品たるケーブル又はそれと同様交互誤接続不能なケーブルを準備提供すべき義務(各診療科の医師において、電気メス器の使用説明書記載の注意を守つて使用する限り、事故は生じえないと考えでよい程度に整備すべき義務)があつたというべきであり、これを診療科の医師一般の立場からいうならば交互誤接続不能なケーブルが手術部により提供されるものと期待して然るべきであつたといつてよいであろう。被告人澤口の検察官に対する供述調書や公判(第一一回)供述などによれば同被告人も本件手術当時、手術部の業務について右のとおりの信頼をよせていたことが認められる。当時の手術部の陣容は必ずしも充実したものでなかつたが、当該関係者においてその職務に期待される相当な注意をつくしさえするならば、右の程度の義務を遂行することは決して困難でなかつたと認められる。ただ実情としてこの義務の遂行に欠けるところがあつたが(高度に複雑な診療機器を備付け、管理する手術部においては、専門家に依頼して各種機器の点検整備を定期的に行うとか、又は手術部が主唱し各診療科の主要メンバーの協力をえて各種機器について定期的な総点検を行うなどすべきであつたといえよう。とくに前者については、本件事故前、手術部看護婦長樫田テルから事務当局に対して、その必要が具申されていたようであるが採用されないでいた。樫田テルの一一月二〇日付検察官に対する供述調書参照)、被告人澤口のような副手ないし研修生にすぎない地位にある医師において、そこまでの実態を洞察しえなかつたからといつて、深く咎められるべきではないと思われる(手術部の業務運営を管掌していた手術部運営委員会や手術部連絡委員会にも被告人澤口のような通常医師は参画していなかつたようである。甲二六号証参照)。

結局、右(イ)ないし(ハ)で認定した事情を綜合すると、被告人澤口においてケーブルの交互誤接続の可能性について具体的な認識をもちえなかつたことについて格別の非難に値する事由は認めることができない。

(2) 電気メス器は高周波電流を患者の身体に通じその回路中に生ずる高熱を利用する診療器械であつて、一種の危険を内蔵するものであり、このような器械の取扱いにあたつては相当慎重な注意を払わなければならない。従つて相被告人畔見のように、ケーブルに交互誤接続の可能性のあることを具体的に認識しているうえで、その接続の操作を直接に扱う者は、ケーブルの交互誤接続によつてどのような事故が生ずるかにつき具体的または明確な認識をもつことができなくても、それを誤まることにより何んらかの危険が発生するおそれなしとしないという程度の認識をもち得る限り、その操作につき慎重な態度を欠くことは許されず、これを欠いてその操作を誤まるならば過失責任を免れることはできない。

しかし、右(1)で述べたとおりケーブルに交互誤接続の可能性のあることについて具体的な認識をもたず、かつそのような認識を容易にもつことができたともいえない医師について、たんに一般的に電気メス器が危険を内蔵する器械であるとの認識をもつていたことを根拠にして、又は抽象的観念的にケーブルの交互誤接続が行わる場合なんらかの危険が生ずるおそれなしとしないという危惧感をもちうるであろうということを根拠にして、看護婦の扱うケーブルの接続の操作の正否を二重に点検確認すべき注意義務があつたと解するのは刑事責任を肯定する条件として過度に慎重な態度を要求するものであつて相当でないように思われる。危険を内蔵する器械といつてもその安全性が相当期間にわたる実用の過程を通じて十分確認されたとみられてよいものと、そうでないものとがあるが、電気メス器については、これまで本件のような事故例は皆無であつたのであり(証人村上忠司の証言その他)、事故当時における評価としてその危険内蔵性を過度に強調することは相当でない。人が一種の危険を内蔵する機器の操作を扱う場合(日常生活においてもその例はめずらしくない)、予想される危険の程度(危険の発生度と発生した場合における危害の大小)に応じて一定の対策をとり又はとらない。予想される危険の程度が小であれば特別の事情のない限り、他人にその操作を任せ、自らさらにその操作の正否を点検するまでのことはしない。予想される危険の程度が大であれば、他人に任せることなく、自らも二重にその正否を点検する。当時として、危険の内蔵性をそれほど強調することが許されなかつた電気メス器について、そのケーブルの接続を看護婦に任せ、医師自らこれを点検確認しなかつたからといつて、その措置が不当であつたとはいえない。

(3) 一定の行為者に特定の注意義務を課すべきか否かを判断する場合、その行為者の本来的役割がどのようなものであつたかを顧慮しなければならない。本件手術は、被告人澤口執刀医のほかに手術助手三名、麻酔医二名、介助看護婦三名のチームワークで行われた。これら診療科の医師のほかに、手術器械、器具を一般的に点検、整備する手術部のスタッフがその背後に控えていた。その手術は相当の危険性をもち、高度の技術を必要とするものであつた。そのような手術がこのような態勢で行われる場合、執刀医は、主として手術操作と術野その他手術成績の本来的向上につながる事項にその注意を集中すべきことが期待される。このことは、手術の開始後ばかりでなく、開始前においても妥当すべきものであつて、手術前においては、手術適応の有無、手術方法についての検討吟味、患者の容態観察と輸血の準備措置、術前の諸データーの吟味、術者自身の手指と術野に対する丹念な消毒、予想されうる合併症や予想外の疾患が判明した場合に備えての種々の対策の用意、あるいは後述の補助的、準備的作業のうち、具体的な危険の予想されるいくつかについての点検などについて、執刀医は怠りなくその注意を配ることが要請される。その反面、執刀医でなくてもなしうる補助的、準備的作業については、できる限り執刀医以外の手術助手や看護婦が各自金責任をもつて又は連帯して処理し注意を払うべきことが期待される。電気メス器本体について、アースを引くことやそのケーブルの接続もこれに含まれるであろうし、更にケーブルの接続の正否の点検の必要が認識される場合におけるその点検確認なども、本来的にはここにいう補助的準備的作業の範囲に含まれるといつてよいであろう。このような診療態勢における執刀医の地位、役割は、チームの各スタッフの行う各作業の正否について総括的な点検、監視をすべき者ではなく、むしろ手術操作と術野などに専念すべき高度の技術者たる役割を果たすことがそのあるべき姿であろう。

もちろん検察官が適切に指摘しているとおり、パラメデイカル、スタッフによるチーム医療といつてもそれが各スタッフ間の責任分担について機械的に画然と一線を引きうるものではなく、引くべきものでもない。ある作業の遂行に関し具体的な危険発生の予兆が認識されるのに、それが他のスタッフの分担領域に属するということから執刀医はそれに関知しなくてよいというような形式的なものであつてはならない。しかし手術操作の専念者である以上、執刀医が補助的準備的作業の正確性について払うべき注意力はおのづから限られたものであり、かつ限られて然るべきものである。他の補助的スタッフの担当領域について、執刀医の立場からみて具体的な危険発生の予兆も認識されないのに、その作業の正否について一々積極的な注意や関心を向けなければならないとしたならば、執刀医が本来果たすべき領域について集中的かつ徹底した注意を向けることは不可能となり、手術成績の向上は望みえず、それこそ患者に対し重大な危険をもたらすことになるであろう。

本件手術当時において、手術部から提供される電気メス器のケーブルが正規の附属品でなく交互誤接続の余地ある欠陥品であつたこと、心電計と電気メス器の双方にアースが引かれ、かつ心電計に異常電流の流入を防止すべき安全装置の具備がないこと、このような状態の下で看護婦によるケーブルの接続に過誤が生じた場合重大な事故が発生すべきこと、さらに例えばケーブルの交互誤接続により本件以前に本件と類似の事故例があつたとか、以上の諸点の全部またはそのいくつかについて、執刀医が具体的な認識を有していたような場合あるいはこれを容易に認識しえたような場合においては、執刀医の本来分担すべき業務の範囲に止まることなく、自ら又は他の手術助手に指示するなどして、ケーブルの接続の正否を点検確認すべきであつたといわなければならないが、そのような状況になかつた本件においては、右のような点検確認義務があつたというのは相当でない。

(4) 医業の領域を含め、およそ一般社会に対して標準以上の技術が確保されていると考えられる特定の集団内で反復継続して行われる定型的な行為に関して刑事上の過失責任の前提となる注意義務の懈怠があつたかどうかを考える場合、その集団内で従来から疑問をよせられることなく踏襲されてきた慣行を顧慮しなければならない。それが一般社会からみて明らかに不当でありまたは非常識であり或いは危険とみられるものである場合には、その慣行に従つたことを理由として注意義務をつくしたとされることはないが、そうでない限り、その慣行に従つたことは一応、標準的注意をつくしたものとして刑事責任を否定する方向に働く有力な一事由と認めてよいように思われる。慣行といわれるものの中には、時に不合理なものや不徹底なものが含まれ、終局的にこれに安住すべきものでないが、しかし他面それは種々の実際上の必要や経験を背景として存続し、これに従うことにより各行為者の行為は単純化され省力化され、他の多くの重要で困難な行為が可能とされるものであるとともに、個々の行為者においてそのような慣行を越えて思慮と洞察力を働かせることは著しく困難であるのが通常である。刑事上の過失責任の有無を論ずる場合この点は看過しえないように思われる。

本件においてみると、附属病院第二外科診療科の医師が電気メス器を使用して手術を行う場合、そのケーブルの接続はつねに間接介助看護婦に任せ、執刀医自らがその接続の正否を点検確認するようなことはなかつたと認められる(被告人澤口の供述、証人村上忠司の証言、杉江三郎の検察官に対する供述、証人鮫島夏樹の証言など)。もつとも樫田テルの検察官に対する供述調書(一一月二〇日付)、黒江スズエの公判調書中の証言記載、坂下カホルの公判調書中の証言記載中には、多数の医師の中には稀れにケーブルの接続に関して看護婦に声をかけるものがいたという趣旨の供述がみえるが、それは点検確認というほどのものではなく、たんに「接続してくれたか」、「使つてよいか」という程度の意味のものにすぎなかつたようである。そしてこのような慣行が続けられてきた過程の中でこれに由来してなんらかの事故が生じたこともなかつた。この慣行は本件事故後の現時点からみると、危険を含む不当な慣行といわざるをえないが、本件手術当時においてはそのように考えることができなかつたことも事実である。このような場合、被告人澤口が右の慣行に従つて看護婦にケーブルの接続の操作を行わせ、自らその接続の正否を点検確認しなかつたからといつて、直ちにこれをもつて刑事責任の前提としてよいほどの注意義務の懈怠があつたとみるのは相当でないように認められる。

(5) いやしくも、なんらかの落度があれば直ちに刑事上の過失責任を認めてよいというような論は排斥されるべきものである。かねて言われているように「刑事上の過失は行為者に対する人格的非難たることを本質とし、過失者は犯罪者として極印せられるものである」ことを考えると、それは民事過失の場合に比してある程度高度なものでなければならない。

以上の諸点を綜合して考えると、被告人澤口の前記所為について注意義務の懈怠があつたということはできないと解するのが相当である。

よつて被告人澤口については刑事訴訟法三三六条により無罪の判決を言渡すべきものである。

(渡部保夫 河本誠之 仙波厚)

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